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不動産流通とIT革命の融合で誕生したランドネット急成長の秘密
大手不動産会社での経験が独立へのきっかけに
DX(デジタルトランスフォーメーション)はあらゆる産業で積極的に推進されているが、不動産業界は複雑な業務プロセス、法的課題、業界の風習が大きな障壁となっており、DX化を進めていくことが難しいという。
LIFULL HOME‘s(ライフルホームズ)が不動産会社向けのサービスを提供する6社と共同で行った「不動産業界のDX推進に対する実態調査」(調査実施期間は2023年4月3日~4月21日、回答数は518人)では、DXに取り組んでいない企業は全体の46.5%、DXに取り組んでいない理由の半数近くが「取り組む必要性を感じていない(48.5%)」からだという。
このような中でいち早くデジタル化を進め、収益拡大を続けているのが中古のワンルームマンションやファミリータイプの投資物件を手掛けるランドネットだ。
多くの不動産業者は仲介業者を通して物件情報を入手するが、ランドネットは違う。売り手から直接、物件を買い取るため(直仕入れが72%)、売り手にとっては迅速に物件を売却することができる。さらにランドネットは直接買い付けをしている上に、リフォームから、ローン契約、保証、販売まで一手に行うことができることから、買い手は割安価格で物件を入手することができる。売り手にとっても買い手にとってもメリットのある仕組みを構築しているのである。しかも取引は日本全国どこでも可能だ。
こうした仕組みを支えているのが営業支援システムと独自で開発したデータベースだ。
「営業支援システムとデータベースによって、どんな物件でも取引事例が即座にわかります。お客様との会話も物件の場所もわかります。その上でお客様と話をするので当然仕入れ力は高くなり、良い物件が集まるわけです」
ランドネットの榮章博社長はこう説明する。
1999年の創業から急成長を続け、投資用ワンルームマンションの取引高・契約件数では業界トップクラスに成長した。ランドネット急成長の秘密とはいったい何なのだろうか。
業務フローづくりとWindows 95の登場が独立のきっかけに
榮氏は大手マンションデベロッパー、大京での経験が新会社設立の大きなきっかけとなったという。
榮氏は2浪して中央大学法学部に入学、4年から司法試験を目指すが、択一には合格するものの論文試験には合格できず、27歳で司法の道を諦める。
その後大学の先輩の誘いで、1987年に大京に入社。配属されたのは大京の不動産流通部門を担っていた新宿支店の経営企画室だった。
大京では新宿支店を分社化して上場を目指すというプロジェクトが進められていたことから、榮氏は上場準備を担当した。新宿支店は1988年、大京の100%子会社、大京住宅流通(現大京穴吹不動産)として生まれ変わった。
「ここで宅地建物取引業の免許取得や、会社・組織づくり、上場のノウハウなど多くのことを学ばせていただきました」(榮氏)
大京住宅流通で業務フローをつくり、システム部でそれをマニュアル化するための仕組み作りをした経験は独立するための大きなきっかけとなった。
上場準備などの管理部門やシステム開発の仕事を6年ほど勤めた後、営業部門に異動。ここでは「マンション販売の成績でナンバー2になったこともありました」(榮氏)。
1995年、Microsoft Windows 95(マイクロソフト ウィンドウズ 95)が発売されると、インターネットが一般家庭にも広く普及するようになり、本格的な「IT革命の時代」が到来することを告げた。
「デスクトップパソコン一台あれば、これまで携わってきたシステムの開発が一人でもできてしまうのではないだろうか、と考えるようになりました」(榮氏)
当時大手企業は大型コンピュータを使ってデータベースなどを構築していたが、中小零細企業では高価で手が届かない。そのため中小零細企業は情報処理の分野では大企業に到底太刀打ちできなかった。しかしウインドウズ95が登場したことで、パソコンでも大企業並みのデータベースやシステムを開発することができる。これを活用すれば、今までのノウハウを活かして効率化を実現するためのサービスが展開できる。これには必ず需要があると考えるようになったのだという。
朝は9時から夜の11時まで1年かけてシステム構築
榮氏は1999年、ワンルームマンションや築古のファミリーマンションなどを扱うランドネットを設立する。
このとき不動産市場は厳しい時期だったが、「バブルが崩壊したときでもビジネスチャンスはある。実際単価の低いワンルームの物件は動き出していましたから」と榮氏は語る。
しかし最初は社長一人の零細企業。営業もシステム開発も一人でやらなければならなかった。
しかも法学部出身の榮氏にはSE(システムエンジニア)のように自分でコードを書いてシステムを開発するスキルがあったわけではない。
「当初はサーバーの存在すら知りませんでしたから、最初はデスクトップのパソコンにノートパソコンをつなげて、サーバー代わりにしました。しかし3台繋いだら、動かなくなってしました。いろいろ周りに聞いたらサーバーが必要だということがわかり、Microsoft SQL Server(マイクロソフト・エスキューエル・サーバー)やMicrosoft Windows 2000のサーバー用のソフト、Dellのトール型の10万円のサーバーを買ってきました」(榮氏)
マイクロソフトのSQLサーバーは、複数のデータベースを関連付けるリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)で、ウインドウズと相性のいいRDBMSとして知られている。
しかしシステム開発というのは、ソフトやサーバーがそろえば簡単にできるというものではない。
「大京のシステム部で業務フローのマニュアル化を進めてきたといってもシステム開発を自分でやった経験はありません。マニュアルを買ってきてソフトのインストールから始めなければならないという状態でした。ところが初めてやるとマニュアル通りには動かない」
当時はすでに2、3人の社員がいたので、朝9時にきて、その社員たちに指示を出して再び作業に入る。初期化して最初からまたインストールして設定し直し、それでもだめならまた初期化する。そんな作業を夜の11時ごろまで行った。
一か月ぐらいでやっと動くようになり、システムの完成には1年を要した。
「システム開発は非常に苦労しましたが、毎日がわくわくで楽しくて仕方がありませんでした。全部ひとりで取り組んでいたので、お酒を飲みながら仕事に没頭することもありましたし、もともとプラモデルや機械いじりが好きだったのでそこまでできたのではないでしょうか」(榮氏)
榮氏が1年間の間にさまざまな営業支援システムを開発している。システムの中身は以下のようなものだ。
最初の段階で構築したシステムは物件の買い取りのためのシステムだ。
まず顧客情報をデータベース化し、顧客に対するダイレクトメールや電話営業するための画面の作成。
さらにその後顧客とのやり取りをログ情報として残すことができる仕組みをつくり、それを全社員で共有できるようにした。
「私の一番得意なことは業務改善だと思います。中でもシステム開発で最初に取り組んだのが情報の共有化です。不動産の営業というのは個人事業主のような方が多いですから、なかなか情報の共有が難しい。システムだけを作っても意味がないのです。本人が直接入力しなければならないとなると、なかなかやりたがらない。メールなどをうまく集めながら情報の共有化を進めていますが、どうやってみんなで情報を共有できるようにするのか、それは今でもいろいろ工夫しているところです」(榮氏)
物件を買いたいという顧客のためには、販売図面、売買契約書、重要事項説明書を作成する画面を構築。販売図面には価格、最寄り駅、面積、間取りなどを明記し、写真を添付した。
契約締結後にはお金が動くので、手付金、中間金、最終金とお金の流れがわかるようにするための画面を作成した。
タックシールがIT戦略のカギに
「大京時代にパソコン用の表計算ソフト、Lotus 1-2-3(ロータス ワン・ツー・スリー)を使ってダイレクトメールのあて名書きなどに使うタックシールを作っていました。こうした経験は、独立したときにもダイレクトメールのあて名書きや販売図面の作成などで役にたちました」(榮氏)
販売図面の作成では価格、沿線駅、面積、間取り、写真が必要だが、画像データをどのようにしてタックスシールのA4の紙に反映すればいいのかがわからなかった。しかし、データベース管理システムのソフトウエアのMicrosoft Office Access(マイクロソフト・オフィス・アクセス)を使ってこの問題を解決した。
「社員の名簿をつくるときに、Accessの説明書には社員の顔写真と社員の経歴などを合わせて載せることができると書かれていたので、だったら販売図面に写真と間取図を載せることもできるだろうと思い、Accessを活用しました。結局タックシールを応用してシステムを構築したといってもいいのではないでしょうか」(榮氏)
このほかにも会計ソフト、弥生会計に突合する画面やローンの履行を確認するために、きちんと申し込みが行われているかどうか、司法書士と連絡を取っているか、といった履行管理の仕組みを作成した。
決済が終了したら仲介手数料や、物件の売却益がわかる仕組みをつくり、営業マンの成績をもとに給料を支払う仕組みまでをつくった。
成功のカギは情報の資産化とデータドリブン経営
すでに榮氏は法務局で入手できる日本全国77万件(2023年7月期ホームページ記載)のマンション情報をデータベース化している。
データベースには主要なマンションの名前、総戸数、構造と階数、面積などが記載され、各部屋の所有者の情報もある程度わかる。区分マンションの物件情報は、北は札幌から南は石垣島まで情報収集し、データベースに反映させた。日本全国の物件を扱えるのはそうした努力の成果だ。
「こうした情報は当初、売買契約書の作成や住宅設備の仕組みに活用していましたが、会社の規模が大きくなるにつれて、多くの人たちがアクセスできるようなものにする必要が生まれました」(榮氏)
そこでインターネットを介してホームページにアクセスするためのソフトウエア、ブラウザーのアップデートを徐々に行いながら、IP電話の機能を追加したり、物件の経歴や成約事例の履歴を残せるようにしたりして、改良を重ねた。
営業を始めると収益は右肩上がりで、2021年7月には東証スタンダード市場に上場した。
「日本はまだまだ経済成長が続く。そのような中で日本の不動産価格もまだ上がっていくと見ています。中古のマンションだけでなく、北は網走から南は石垣島までのすべての中古の不動産を扱っていきたいと考えています」(榮氏)
500社以上の企業のIT導入やDX推進支援に取り組んできたITワークス代表取締役の本間卓哉氏は次のように語る。
「物件ごとの情報を蓄積していけば、それは貴重な情報資産となり、データを活用した仕組みを作ることで、経験が浅い人でも的確な判断や提案ができるようになります。これこそが営業のデジタルトランスフォーメーション(DX)です。 ランドネットは、独自のWebシステムを構築し、あらゆる情報を資産化しています。その結果、時代の変化や要望に柔軟に対応できる体制を整えています。こうしたデータドリブン経営によって、業績を飛躍的に伸ばしているといえます」