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システムリサーチに学ぶDX認定事業者になる方法
DX戦略のセカンドステップとしてDX認定の取得
経済産業省のDX認定制度に対する関心が高まっている。DX認定事業者となった企業の数は2023年7月には747社(大企業511社、中小企業等236社)だったものが2024年7月には1111社(大企業621社、中小企業等490社)と倍近く増加している。
DX認定制度は、デジタルによるビジネスの変革を目指す事業者を国が認定する制度。2020年5月に施行された「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」に基づき、デジタル技術による社会変革を踏まえて経営者に求められる対応をまとめた「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応し、DX推進の準備が整っていると認められる企業を国が認定する。
なぜDX認定制度に関心が高まっているのか。
経済産業省ではホームページの「DX認定制度(情報処理の促進に関する法律第三十一条に基づく認定制度)」の項目で次のように説明している。
「DX認定制度の認定事業者に対するアンケートでは、約80%の認定事業者がDX戦略の推進に効果があったと考えており、顧客との関係、人事の育成・確保でも良い効果があったと実感しています。また、直近1年間(2024年7月時点)の全認定事業者数は1.5倍で伸びており、特に中小企業等では約2.1倍と全認定事業者数の増加を牽引していることから、中小企業等においても本制度やDX推進の取組みが広がっています」
ではなぜ多くの企業が認定制度に関心を示すのか。その理由としては第一位が78%で「DX戦略の推進」、2番目が72.2%で「顧客に対する企業イメージの向上」、3番目が54.7%で「DX認定制度ロゴマークの使用」だという。
確かにDX認定制度で認定事業者になれば数々のメリットがある。
「DX認定」のロゴを使用して認定事業者がホームページや名刺などで「自社がDXに積極的に取り組んでいる企業」であることを社内外にPRできるほか、①日本政策金融公庫からの金利優遇(基準利率1.25%よりも低い特別利率(0.65%)の適用②中小企業信用保証法の特例③DX投資促進税制(デジタル関連投資に対し、税額控除(5%または3%)もしくは特別償却30%を措置する――ことなどがあげられる。
また上場企業にとっては、経済産業省と東京証券取引所が実施する「デジタルトランスフォーメーション銘柄」の応募条件となる。
ではどのようにすればDXに取り組んでいる事業者として認定されるのだろうか。そこで今回は2023年6月にDX認定事業者を取得したシステムリサーチに話を聞いた。
「取引先にもアピールできるのでは」という思いからDX認定事業者を目指す
システムリサーチは2019年7月に社長に就任した平山宏氏が10年を見据えた取り組みをするよう指示。これをきっかけに事業部長や部門長が数か月間かけて議論を重ね、中長期目標「Next Vison 50th(NV)」を策定、2022年4月から5つの取り組みを開始した。
このとき5つの取組の一つでDX技術者を育成していた「新たな価値を創出する技術力」の検討チームの中からDX認定事業者の申請をすべきではなかという声があがってきた。
自動車システム事業部執行役員で「新たな価値を創出する技術力」検討チームの責任者、中川智氏は次のように語る。
「DX認定事業者の申請について議論がなされるようになったのは2022年ごろからです。DX認定事業者となればSIerとして取引先にもアピールが出来るのではないか、ということで『新たな価値を創出する技術力』検討チームから議論が始まり、社長にも提案した上で、正式に取得に向けて動き出しました」(中川氏)
システムリサーチは2022年4月、平山社長を委員長、中川氏を副委員長とするDX推進委員会を2022年4月に設置した。
DX推進委員会は、その傘下にある社内DX担当、DX部門推進担当、DX人材育成担当が上位方針を受けて全事業部の部門長や管理職と検討し、推進できる仕組みとなっている。
DX推進委員会は四半期に1度、委員会を開き、四半期ごとの事業計画の進捗状況を検討。NVの各チームはDX推進委員会の方針を踏まえてタスクを推進するという体制が構築された。
DX推進委員会が動き出したのは6月ごろから。DX認定制度を活用するためには認定審査事務を担当している独立行政法人情報処理推進機構(IPA)に所定の申請書を提出する必要がある。
申請対象企業は所定の書類をIPAの「DX推進ポータル」からダウンロードして作成し申請。IPAは「デジタルガバナンス・コード」の基本事項に対応しているかどうかを審査する。
申請書は以下の設問で構成され、質問に従って回答していくことになる。
(1) 企業経営の方向性及び情報処理技術の活用の方向性の決定
(2) 企業経営及び情報処理技術の活用の具体的な方策(戦略)の決定
① 戦略を効果的に進めるための体制の提示
② 最新の情報処理技術を活用するための環境整備の具体的方策の提示
(3) 戦略の達成状況に係る指標の決定
(4) 実務執行総括責任者による効果的な戦略の推進等を図るために必要な情報発信
(5) 実務執行総括責任者が主導的な役割を果たすことによる、事業者が利用する情報処理システムに おける課題の把握
(6) サイバーセキュリティに関する対策の的確な策定及び実施
申請作業の手順としては「経営ビジョン」や「DX戦略」の素案を作成して取締役会など機関決定を行い公表する。
システムリサーチのDX推進委員会は2023年1月から2月にかけて、「経営ビジョン」と「DX戦略」の素案を作成した。
「当時は経営ビジョンがありませんでした。そこで10数人で社長を中心としたNVのチームで具体的に検討を行いました」(中川氏)
ここで決定された「経営ビジョン」は「ビジネスに寄り添うITパートナー」。これを核に「プロフェッショナルとして顧客に頼られる存在になる」「誇れる技術で得意分野を磨き、新たな価値を創造する」「仕事を通じて成長し、社会への貢献と活躍を実感する」という3つ目標を打ち立てた。
苦労した実戦経験を求められるPMの育成
「DX戦略」ではその骨子や具体的な取り組み、そして定量的・客観的にDX戦略の達成度を測り、評価して次のアクションにつなげるための「KPI(重要業績評価指標)」が検討された。
「DX戦略」の骨子では競争力を強化するための①自社業務とサプライチェーンのDX化を推進②DXソリューションの拡充と新規デジタルビジネスの創出、競争力強化のための③デジタル変革を支えるITプロフェッショナルの育成の3本柱を掲げた。
実際にDX戦略を推進していく中で苦労したのが「デジタル変革を支えるITプロフェッショナルの育成」の取組の一つであるプロジェクトマネージャー(PM)の育成だ。
PMとはプロジェクトの計画・遂行に責任を負う管理者のことだ。プロジェクトの目標を達成するために、予算や人材、設備を用いて計画を立て、進捗を管理する。具体的には①計画の策定②チームの編成③進捗管理④リスク管理⑤コミュニケーションの円滑化などを行うリーダーシップや高度なスキル、専門知識が求められる重要なポジションだ。
PM育成は2021年4月からスタートし、システムリサーチは「経営ビジョン・DX戦略」のPKIで、PMを毎年20人以上育成すると発表している。
「社内的には毎年20人ぐらいを目標にやっていましたが、最初のころは苦労しました。プロジェクトマネージャーは座学だけでなく、実務経験を積まなければなりません。そのためプロジェクトマネージャー候補者には優先的に主要な案件をアサインしてもらうようにしましたが、タイムリーに案件が出てこないケースもあり、調整には苦労しています」(中川氏)
しかし経験の浅いPMでは不安になる取引先もいる。そこで上長や事業部長がしっかりと監督し、PMの指導を行うことになっている。
それだけではない。特に1500万円以上の案件の場合は見積の段階から月次で、経営企画部経営企画グループ(4人)が100項目以上のチェックリストを活用して精査している。
突発的な問題に対しては現場の上長や事業部長がフォローしている。だから会社として組織としてのバックアップ体制はできているのだという。
最終的に「経営ビジョン」「DX戦略」は2023年3月の取締役会で承認され、4月にはシステムリサーチのホームページで発表した。
何度か修正が求められる新規申請
申請は上述の申請書の様式に従って(1)~(6)の設問に答える形となる。
システムリサーチが新規申請を行ったのは2023年4月のことだ。その後返答は電子メールでだいたい1週間くらいで戻ってくる。ここで修正点などが指摘され、それを踏まえて質問に回答することになる。
「一回目の返信ではいろいろな質問がありました。それに対する回答や補足資料の提示などやり取りを何回か繰り返しました」(中川氏)
このとき問題となったのが、申請書の書き方の問題だった。
システムリサーチの経営企画部広報室執行役員で社内DX担当責任者の太田吉信氏はこう語る。
「当初は参照形式で、これについては参照先を見てくださいといった形式でまとめて送りました。しかしこうした形式では本来の趣旨にあっているのか、事務局側がなかなか理解しづらい。そこで要領にそった一問一答形式で返答するようにしました。主催者側のやり方に沿った方法で対応することが重要だと思います」(太田氏)
さらに申告書の記載内容についても課題が発生していた。
「社内DX化については、社内のペーパーレス化、BI化、パートナー企業との連携などを進めていたのですが、申請書には確実に進められていた社内のペーパーレス化ぐらいしか書かなかったのです。しかし事務局から、これでは弱いと指摘されました。そこですべての取組についても記載しました」(太田氏)
DX認定事業者の対象は「企業がデジタルによって自らのビジネスを変革する準備ができている状態」となっている事業者。達成度を求めるものではなく、どのような準備をしているのかが問われている。準備しているものについてはしっかり明記した方がいいようだ。しかし、やれもしないことを書いて話を盛るというのは好ましいことではない。
「申請する前段階ですでにDX認定を受けている企業にもヒアリングしているのですが、DXの準備段階での申請なので、できるかできないか以上に、どこまで努力する意思があるのかをしっかり示すことが大切なのではないでしょうか」(中川氏)
「準備していることや新しい取り組みについての達成目標を書かなければ全く評価の対象にはなりません。しかし話を盛りすぎれば、あとで目標が達成できているのかを自己評価しなければなりませんので、難しいところです」(太田氏)
再認定前には自己診断が求められる
システムリサーチは2023年6月にDX認定事業者として認定を受けた。有効期限は2023年6月から2025年5月末までの2年間。次回の更新申請を行う2025年3月から4月ごろに自己診断フォーマットの記載が予定されている。
自己診断フォーマットには「会社レベルでDX推進に必要なリソースを投入できているのか」「DX推進に必要な人材育成や確保はできているのか」などのさまざまな設問がある。認定を受けたからと言ってそれで終わりではない。再認定を受けるためには自己診断フォーマットの設問に対応できているのかどうかが重要となる。
経済産業省の商務情報政策局情報技術利用促進課の課長補佐の栗原涼介氏はDX認定制度を活用する意義について次のように語る。
「DX認定制度はあくまで、DXを先進的に取り組んでいる企業を認定するものではなく、DXに取り組むための体制を整備している事業者を認定する制度。また、DX認定の取得により、各種支援措置も用意しているが、支援措置の活用のみならず、自社のDX推進体制や戦略を見直す良いきっかけとなった、自社のイメージの向上になった、との声も多くいただいている。是非、DX認定制度をご活用頂いて、自社のDX推進に取り組んでいただきたい」