JTBのCIOが語る「CIOの役割や魅力」とは
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日本IBMからJTBへ:30年のキャリアを経て、新たな挑戦を選んだ理由
私は1992年に日本IBMに入社し、システムエンジニアとしてキャリアをスタートしました。その後、プロジェクトマネージャーの認定を取得し、いくつかのプロジェクトを担当後、徐々に大規模なプロジェクトに挑戦し、最終的には会社全体のプロジェクトマネージャーを統括するリーダーシップポジションにも就きました。特にサービスデリバリに注力してきました。
オートメーション(RPA/AI)やハイブリッドクラウドへのトランスフォーメーションなど、複数のサービスラインリーダーとしても活動すると同時に、組織横断的なイニシアチブやプログラムにも多く関わってきました。そして、2023年にJTBに入社しました。
IBMでの30年間は、サービスデリバリを中心に活動し、多くの仲間や上司、部下とのネットワークを築きました。しかし、長年同じ環境で業務に携わる中で、将来の先読みができるようになり、新たな刺激や成長の機会を求めるようになりました。そこで、キャリアの次のステージとして新しい挑戦の場を探していたところ、今回の機会に恵まれました。
グローバルリーダーシップと人材育成:IBMでのキャリアとJTBでの新たな一歩
私はプロジェクトマネージャーとして、特に大規模で複雑なプロジェクトに多く携わってきました。PMの最上位職であるCPM(コンプレックス・プロジェクト・マネージャー)として認定され、グローバルなイニシアチブやプログラムのリーダーも務めました。これらの経験を通じて、後進の育成や研修にも力を入れ、人材育成に貢献してきました。
また、PM(プロジェクトマネジメント)学会などに参加し、市場全体のプロジェクトマネジメント力を向上させる活動も行ってきました。ITプロジェクトはすべて固有のものであり、同じソリューションでもメンバーが異なれば全く違う結果になります。これは例えると、野球やサッカーなどの試合と同じで、監督としての采配が重要となります。
プロジェクトマネジメントでは、「ステークホルダーマネジメント」「コミュニケーションマネジメント」「リスクマネジメント」に重点を置いてきました。IBM社内でも、大規模で困難なプロジェクトやトラブル発生に関わるプロジェクトに参加し、品質リーダーやCFO(最高財務責任者)、法務担当者など、多くのステークホルダーと協業してきました。
それぞれの役割を理解し、全体としての落としどころを見つけ、ウィンウィンの関係を築くことを常に考えてきました。この経験は現在の仕事やさまざまな場面で役立っています。
他人の目、上司の目、周りの目で評価してもらい、何事も断らず、自分に足りないところをストレッチしていく
いろいろなアドバイスを受けた中で、私が感じていることを述べると、プロジェクトマネージャーとして、上流から下流までエンド・トゥ・エンドで参画する機会が非常に重要だと思います。大きなプロジェクトでは部分的な参画が多く、エンド・トゥ・エンドで関わるのは難しいこともありますが、自分が本気でやりたいプロジェクトにエンド・トゥ・エンドで取り組むことで、リスクマネジメントなどのスキルを総合的に学べると感じます。
これからの私たちにとって、大きなプロジェクト又は困難なプロジェクトを1つか2つ必死でやり遂げる経験は非常に大切です。また、私は幸運にも多くの上司に恵まれ、様々な仕事をアサインされてきました。その中でもプラスアルファで任される仕事も多いのですが、「基本的には断らずに受ける」ことで、自分の強みや弱みを上司や他人の目で評価してもらい、足りない部分を補う機会を得ることができました。多くの横断的なプログラムやイニシアチブに参加することで、自分が参画しているプロジェクトを別の視点で見ることができ、非常に良い経験となりました。
このように、どんどん挑戦を受け入れて立ち向かう姿勢がとても大切だと思います。
より具体的なCIO/CISOの仕事観、やりがいや魅力に焦点を当て、リーダーシップやITリーダーへの効果的なアドバイスなど、黒田氏に話を聞きました。詳細については、こちらのビデオをご覧ください。
CIOやCISOのやりがい、魅力について:
一般的なCIOという意味では、まだまだ私も若輩者なので、まとまったことを答えられるわけではありません。しかし、JTBにおけるCIO、CISOという意味でお答えすると、JTBが非常に厳しい状況にあったという環境が、改革やトランスフォーメーションに向けた機運を高めている状況の中で、私を採用していただいたことに非常にやりがいを感じています。
JTBの過去のプロジェクトには失敗したものもたくさんあったようです。そのような中で、私に期待されている役割を果たすためには、これまでのプロジェクトマネージャーとしての経歴を踏まえて、しっかりと取り組んでいかなければならないと思っています。
このような挑戦的な環境で働くことに、大きなやりがいを感じています。
リーダーシップに関して、成功するCIO(およびマネジメント層)に必要なことは何ですか?
CIOとしての主な使命は、「戦略を立てること」だと考えています。また、中長期のロードマップをしっかり描くことも重要です。この戦略やロードマップを多くの人々に理解してもらうために、「社員にわかりやすい言葉で説明すること、特に経営陣に対してしっかりと説明することが最も重要」だと思っています。
さらに、日本のトレンドも重要ですが、グローバルなトレンドにも敏感である必要があります。前職の経験から、数年後には日本にもそのトレンドが来ることを踏まえると、グローバルトレンドを把握しておくことが必要だと感じています。
ビジネスユニットに信頼されることも重要です。ビジネスユニットの論理をしっかりと理解し、その上で皆さんに話しかけることが大切だと思っています。
私の配下にはIT企画とセキュリティ対策室という2つの部門がありますが、チームのメンバーには、個別部門の視点だけでなく、会社全体を見た視点で考えるようにお願いしています。その上で、どのように共通化していくべきか、JTBとしてあるべき姿を各人が考え、ブレイクスルーを目指すことが重要だと思っています。
このようなメッセージを普段から皆さんに伝えながら、仕事を進めています。
ITリーダーを目指す人たちにどのようなアドバイスをしますか?
私自身、前職で多くの横断的なプログラムやイニシアチブに関わってきた経験から、ステークホルダーや様々な組織の人々、外部のお客様がどのように考えるかをしっかり意識する必要があると感じています。ITだけでは何も成し遂げられず、「事業を支えるIT」でなければならないという理解を持って物事を進めることが重要です。
また、ITリーダーはITの領域だけでなく、事業やビジネスについても深く理解する必要があります。そのためには、自分自身を成長させるための挑戦が求められます。例えば、50キロのバーベルを持てるのであれば、それを60キロ、70キロに徐々に増やしていくことが必要です。筋力を鍛えるためには適切な負荷をかけ、自分にたくさん仕事を呼び込み、成長していくことを自ら実行できる人は伸びていくと思います。
私自身も様々な方の好意で多くの仕事をいただき、それを重ねることで視野を広げ、自分の能力を伸ばすことができました。
時間は限られているため、生産性を上げ、効率的に仕事を進めることが求められます。同時に、新しい仕事を積極的に取り込み、生産性を向上させる方法を考えながら仕事を進めることが重要だと感じています。
今後の展望、中長期的な取り組みについて:
現在、私たちはエンタープライズアーキテクチャの手法を用いて、基幹系システムのトランスフォーメーションを5年、10年先まで見据えて計画し、今まさにその実行に着手したところです。まずは、現行のシステムを最新のモダナイゼーションされた形で効率化し、実現することが最初の目標です。
また、他にも様々なトランスフォーメーションプロジェクトが進行中で、それらを一つ一つ確実に成功させることが最優先事項となります。一方、生成AIのような新しい技術が登場し、それが既存のシステムやプロジェクトにディスラプションをもたらす可能性もあります。そうした技術の動向を注視しつつ、対応していくことも大きなチャレンジです。
さらに、現在進めているプロジェクトが将来的に意味を失う可能性も考慮しながら、皆さんと議論を重ね、しっかりと進めていくことが重要だと感じています。
加えて、国内外に多くのグループ会社があるため、ITガバナンスをJTBから広げていくことも大きな目標の一つです。これを進めると同時に、IT人材の育成にも力を入れ、会社全体としてトランスフォーメーションを推進していく課題に取り組んでいます。